「無線従事者国家試験」
公益財団法人 日本無線協会
林 企画部長
戸田 試験部長
二宮 企画部 副部長
無線従事者の資格は電波法令により定められた資格であり、それぞれの資格に応じた無線局の設備の操作をすることが認められるものです。
また、必要とされる知識が科学・技術に広く役立つものであることから、多様な分野で科学技術を学ぼうとする方も数多く無線従事者国家試験に挑戦しています。
公益財団法人日本無線協会は電波法の定めに基づき、総務大臣の指定機関として無線従事者国家試験を実施しており、CBT方式の試験も同協会の主催により実施しているものです。
国家試験の一部をCBT化。離島含む全国47都道府県のテストセンターで受験が可能となり、受験者の利便性が向上。主催者業務も効率化へ。
時代を先取り80年代からIT化を進めるも、それが新システム導入への足かせにも
CBTS: 貴協会の成り立ちおよび取り組みについてお聞かせください。
日本無線協会(以下、協会):
当協会は総務大臣から指定試験機関および指定講習機関に指定を受け、電波法の規定に基づく無線従事者国家試験事務並びに無線従事者の講習業務等を行うことによって、日本における電波利用の健全な発展に寄与することを目的として設立されました。
近年ではスマートフォンの普及やいわゆる5Gなどの通信の高速化はもちろん、無線LANやLPWAなどの小規模無線の浸透、さらにはドローンなど新たな無線の用途の拡大を背景に、日々進化する電波利用を管理・運用する無線分野の技術者の需要の高まりもあり、無線従事者資格者の育成により一層励んでいるところです。
CBTS: CBT化を検討されたきっかけはどのようなものでしょうか。
協会:
当協会では指定試験機関として指定を受けた1981年当初よりマークシートによる自動採点を採用しており、また試験申請についてもインターネット受付システムをいち早く導入するなど積極的にデジタル化に取り組んできました。
一方で、これらの早期より導入したシステムは新しい機能の付加が難しいことに加え、もとより国家試験として法令の定めに従って公正・確実に実施する必要があることもあり、受験者の皆さまからデジタル化に関する様々なご要望を頂きつつも検討は慎重に進めざるを得なかったところです。
このような中でも近年の新たな技術やサービスの活用に向けて議論を重ねてきたところ、主管庁である総務省からも非常に前向きなご協力とご助言をいただき、試験業務全体のさらなるデジタル化の一環として、この度23種類の資格のうち6資格についてCBTの導入に繋がりました。
CBTS:主管庁からは具体的にどういった点で協力があったのでしょうか。
協会:
協会の行う国家試験事務に関しては、法令の定めによりその業務の規程について認可を受ける必要があり、特に重要な点においては法令の改正が必要となる場合があります。今回のCBTの導入に向けて、前向きにご指導をいただいたばかりでなく、法令の改正にあたっては迅速に取り組んで頂きました。
さらに、合格者の写真の電子的な提出を含めた試験結果の報告等について、総務省の情報システムの改修も適切な時期に実施頂いた点も挙げられます。
CBTS:CBTを導入する前はマークシートによる紙試験(PBT)で実施されていましたが、どのような課題があったのでしょうか。
協会:
全国11か所の会場において年間2回~3回の試験を全国一斉で定期的に実施してきましたが、資材や人員を手配した上で公正な試験を実施できる会場の設営などが必要となるため、会場や日程を増やすことは容易ではありませんでした。そのため、受験者の皆さまには、日程の調整や交通機関の確保等、受験にかかるご負担がかかっている状況です。加えて、スマートフォンによる申込の操作が困難であったことや試験手数料の支払方法の拡大などの点も対応するべき課題とされていました。
大手試験をはじめとする多数の導入実績と担当者の寄り添う姿勢が決め手に
CBTS: CBT委託先の選定はどのように進められたのでしょうか。
協会:
国家試験の指定機関として私たちには厳正・公平な試験運営を行う責任がありますが、検討を開始した段階では国家試験にCBTを導入した例はあまり多くない状況でした。このため、ある程度知名度のある資格検定試験の導入実績がある複数の事業者に情報の提供や提案をお願いして比較検討をさせていただきました。
CBTS:委託先として当社をお選びいただいた決め手は何だったのでしょうか。
協会:
詳しい比較結果は申し上げられませんが、各事業者に提案等をお願いするに当たって、個人情報や試験問題の取扱いを含むセキュリティにおいて高い信頼性を担保すること、また、全国の各都道府県に会場(テストセンター)を開設できる点に加え、必要なコストを含めた評価基準をお示し、その結果として選定をさせていただきました。
経過についてあえて申し上げれば、CBTSのご担当者にはこれらの基準を踏まえた上で、無線従事者試験の特徴についてもご理解いただき、しばしば発生する「システム会社=製品機能がパッケージ化され、コスト面も含めて少々柔軟性に欠ける」という問題を最小限におさえて適切な提案をしていただいたことが挙げられるでしょう。
試験の利便性が向上。受験者から喜びの声も
CBTS:CBT化にあたり、特に考慮されたことはありましたか。
協会:
CBT化に向けて出題する設問の設定について慎重に検討することはもちろんですが、その他に対象とする資格の選定にあたって試験科目数と試験時間等が課題となりました。CBTS社の方式は試験時間を最大120分までを目安とし、1回の試験で1資格を取得するような場合に導入しやすい方式と理解しています。一方、無線従事者国家試験では、試験時間が連続で180分のものや、実技を除いても最大5つの科目のそれぞれにおいて最大150分の試験時間を要するために3日間にわたって試験を実施している資格もあります。上級の資格にはこのような課題があるため、当面は比較的試験時間の短い1回の試験で足る初級の6資格をCBT化することとしました。
なお、テストセンターおよび日時を自ら選択できることもCBT方式の強みと言えますが、他の試験と会場を共用するため、試験時間が長時間であればあるほど予約の難易度が高くなる可能性もアドバイスいただいています。
CBTS:CBT化をされて、当初の課題は解消されましたか。
協会:
まず受験者の方の利便性が高まったことが言えます。限定的ながらアンケートを実施したところ、受験者の皆さまからも特に受験機会が増えたことに大変好評な反応を頂くことができました。
全国の主要都市で受験でき、試験日時も自ら選択できるようになったので当然でしょうが、例えば今なお携帯電話に頼ることが困難な漁業など海上無線の分野の受験者は沿岸地域にお住まいの場合も多く、都市部の会場へ向かうには時に船や飛行機の移動を伴うなど負担が大きかったところです。しかし、CBTSでは一部島嶼を含む地方都市にもテストセンターを開設しているので、「受験が容易になった」との声が寄せられています。このような多数の会場の設置は協会が直営する試験においては困難であったと言えるでしょう。
さらに、申込手続きに関しても、スマートフォンからの申込が可能でコンビニやクレジットによる試験手数料の支払いも可能な受付システムと連動していること、また予約した3日前までであれば受験日時・会場を変更できることなど、利便性に係る課題を解決することができ、ご好評をいただいています。
CBTS:その他に改善されたことなどございますか。
協会:
協会側でも各種システムをデジタル化したこともあり、CBTを適用した資格では受験から合否通知までが特にスピーディになったことが挙げられると思います。
従来は試験の申請から受験まで1か月程度を要していましたが、顔写真も電子的に提出できる受付機能を活用させていただくことで作業効率が高まり、現在は申請から2週間後の日程も選択できるようになりました。
また、試験結果の通知も従来は3週間ほどいただいていましたが、CBTを適用した試験では、現在、受験日と結果のとりまとめ日程との関係で遅くても2週間、早い場合には数日後には合否通知をメール等でお知らせできるようになっています。
誰でも受験できる国家試験だからこそ、学びの糸口になる
CBTS:CBTを検討されている主催者様へメッセージを頂けますか。
協会:
特に法令で定められた試験にCBTを適用するにあたっては制度整備等の様々な課題を解決しなければなりませんが、受験者の受験機会の拡大に貢献できるのは間違いありません。その中でも適正に運営されるCBT方式であれば試験としての公正性と試験主催者の負担軽減を実現しつつ受験者の利便性の向上が期待できるのではないかと考えています。
CBTS:最後に、今後の展望をお聞かせください。
協会:
無線従事者資格は国家資格でありつつも、すべて受験資格を問いません。アマチュア無線を中心に小学生での合格者も数多く誕生しています。どのような資格にどのような動機で挑戦するかにかかわらず、受験にあたってはその分野について勉強し、子供も大人も同じフィールドで受験に臨んで合格を勝ち取る必要があります。幼少期から科学技術に興味を持ち、それが国家資格という形で評価されるというのは将来に向けて得難い経験になるものと思います。
また、いわゆるシニア世代の方々やハンディキャップをお持ちの方々におかれても、学ぶことに強い意欲を持ち、新たな分野への挑戦として、あるいは既に資格を持ちながらより上級の資格に挑戦されているとお見受けする方々も数多くおられます。
当協会は国家試験事務の適正な実施により電波利用の健全な発展に寄与するとともに、幅広い世代の学びのきっかけになり、この分野での人材育成にも役立つことを期待しています。そのためには引き続きデジタル化を含めて、より多くの受験者の皆さまの利便に配慮した試験運営に努めていきたいと考えています。