「生産マイスター検定」
一般社団法人 人材開発協会
専務理事 千野道人氏
生産マイスター検定は、ものづくりの現場で活躍する人を対象に「役割、品質、コスト、納期、安全・環境」に関する知識・能力の認定と人材育成の支援を目的とした検定です。年間約5,000人・累計約500社が受検し、昇進・昇格の要件といった人事評価基準の1つとしても活用されています。2021年より、紙での一斉試験に加えてOnline Test Centerでの試験実施を開始しました。
脱炭素社会などを目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」に向けた取り組みが世界中で進められている中、ものづくりの現場視点で環境問題に対する知識も身に付く生産マイスター検定は注目を浴びています。それを受け、2020年にはタイで生産マイスター検定を基盤とした教育プログラム「Master of Industrial Manufacturing」をスタート。日本だけでなく、グローバルな人材育成支援にも取り組んでいます。
Online Test Centerで利便性と厳格性を併せ持った試験を実現。オンライン時代の生産マイスター検定をシー・ビー・ティ・ソリューションズ社と作りたい。
場所の制約をなくして平等な人事評価の機会を作るため、試験のオンライン化を決めました。
以前より生産マイスター検定は、受検の利便性向上を目指していました。というのも、生産マイスター検定は工場で働く生産・製造部門の社員や研究開発・技術部門の社員などが受検者の約8割を占めており、同一社内でも勤務地が点在している場合があります。そのため、限られた数の会場で行う紙での一斉試験では、受検者の居住地によって受検に対する利便性に差があったのです。
人事評価の基準として生産マイスター検定を活用していただいている企業もあるため、居住地によって受検のしやすさが異なると昇進・昇格の機会が平等ではなくなってしまうのではないかと課題に感じていました。
このような理由から利便性向上の施策として選択肢に挙がったのが、会社や自宅などインターネット環境があればどこでも受検できるオンライン試験(IBT:Internet Based Testing)の導入です。しかし、従来のIBTでは私どもが満足するような受検の様子を確認するシステムがなかったため、「厳格性の面から不安があるのではないか」と足踏みをしていました。
そこに、2020年から新型コロナウイルスが流行。感染拡大により今まで通りに試験が実施できなくなる可能性に直面し、コロナ禍に後押しされる形で試験のオンライン化に向けて動き出しました。
厳格性と利便性を兼ね備えた「Online Test Center」は求めていたオンライン試験の形でした。
このような背景で、オンライン化に向けて情報収集を行っていたときに知ったのが、2021年からシー・ビー・ティ・ソリューションズ社(以下、CBTS)が提供を始めたOnline Test Center(オンラインテストセンター)でした。
Online Test Centerとは、試験監督官のリモート監視の元、インターネット環境があればどこにいても受検ができるサービスです。受検の様子をWebカメラで監視するだけでなく、試験監督官と受検者の個別チャット機能や試験監督官が受検者の画面を確認できる機能など、監視に必要な機能が備わっています。これは厳格性と利便性を併せ持った試験を実施できる、まさに私どもが求めていた「オンライン試験」を体現する試験方式でした。
Online Test Center導入まで2カ月。スピーディーな導入フローはCBTSが培ってきた経験の結晶。
今回、CBTSと打ち合わせをしてから約2カ月という短期間でOnline Test Centerを活用した試験をスタートしました。
この短い期間でOnline Test Centerを導入できたのは、CBTSが今まで運営してきた数多くの資格・検定試験から経験を得て、主催者にとって分かりやすい導入フローを確立していたからだと思います。中でも、指示通りに問題や解答を入力すれば、営業担当の方やサポートチームの方の確認後、内容がシステムに反映されるという入力フォーマットは効率が良く、大変驚きました。
その他、受検者が使用するパソコンの画面サイズによって問題文の改行位置が異なってしまうといった課題についても、CBTSの方々と相談して最適化を図っています。話し合いながら進めていくことで、一緒に検定試験を作り上げていると実感できました。
準備中は初めての作業ばかりで戸惑うこともありましたが、単に良いシステムを提供するのではなく、協会と検定に寄り添っていただけたおかげで試験のオンライン化の第一歩を踏み出すことができました。「この会社と一緒に将来にわたって試験運営を進めていきたい」と感じられた仕事ぶりも、CBTSの魅力です。
受検者の70%以上がOnline Test Centerを「受検しやすい」と回答。ものづくりの現場の受検者にも評価をいただくことができました。
Online Test Centerの導入に当たって心配だったのが、受検者のパソコン環境やスキルです。ものづくりの現場で働く方は、工場などでの作業がメインのため会社からパソコンを支給されていないケースが多くあります。パソコンに慣れていない方もトラブルなくOnline Test Centerで受検するために、CBTSの営業担当の方と協力しながら受検方法についてまとめたオリジナルマニュアルの制作や利用方法の事前説明会などを行いました。
念入りな準備が功を奏したのか、Online Test Centerでの試験後に受検者と企業の教育担当者に向けて行ったアンケートでは、受検者の71%がOnline Test Centerを「受検しやすい」と回答。89%の教育担当者が「Online Test Centerを今後も活用したい」と答えてくださいました(一般社団法人 人材開発協会調べ 2022.1)。
現在はまだ紙での一斉試験をメインとし、一部の企業向け試験のみにOnline Test Centerを活用しておりますが、私どもとしてはもっと多くの方への受検を推奨していきたいところです。実際に、先述のアンケートでも「もっと多くの希望者にOnline Test Centerを提供して欲しい」という意見も頂いています。
そのためには「実際の使い心地や運営における改善点を把握する必要がある」と、協会の担当者が試験にチャレンジしました。担当者としては、試験開始前に必ず行う「本人確認」や「受検環境確認」の時間が長く感じるのではないかと懸念していたのですが、試験監督官のスムーズな進行により、受検しやすいと感じたようです。また、受検中にメールシステムを誤って起動してしまったところ、試験監督官から「閉じてください」という指示が個別にあったという報告も受けています。厳格に試験が実施されているのだと担当者を通じて確認でき、さらなる信頼につながりました。
今後、Online Test Centerは新型コロナウイルスの影響で急に紙試験での受検が難しくなった場合の受検手段として役立つだけでなく、各社の教育担当者が団体受検時の試験監督官として休日出勤を余儀なくされるケースの解消にも効果を発揮すると、私どもは推測しています。より多くの方にOnline Test Centerを利用していただくためにも、CBTSと協力しながら運営の改善などに取り組んでまいります。
海外赴任者への受検機会も提供可能に。
全国各地の受検者に平等な受検機会を作りたいという思いで開始したOnline Test Centerですが、当初の想定を超えるメリットがありました。それは、「海外にいる方の受検」です。
海外に工場を持つ日本企業が多いのは、ご存知のことかと思います。海外工場では現地の方を雇用していますが、日本からも複数名赴任するのが恒例です。Online Test Center導入以前に生産マイスター検定を利用していた企業では、海外赴任者は日本に帰国したタイミングでしか生産マイスター検定を受検できず、国内にいる社員と比べて受検機会が減ってしまうという課題がありました。ましてやコロナ禍の現在、帰国することは容易でなく、今まで以上に受検が困難な状況になっています。
ところが、インターネット環境さえ整っていれば受検可能なOnline Test Centerを利用することで、海外を含めどこにいても平等な受検機会を提供できるようになったのです。先日行われた試験回では、タイやシンガポール、中国に加え、欧州のオランダにいる方が実際に受検できました。
Online Test Centerを導入したことをきっかけに、さまざまな場所にいる方が平等な受検機会を獲得できる可能性が高まったと強く感じています。
検定開始から10年。生産マイスター検定の未来をCBTSと作り上げたい。
ちまたでは、「新型コロナウイルスがDX化やオンライン化を進めている」といわれるようになりました。しかし、私どもは試験のDX化やオンライン化は既定路線だったと考えています。この流れは今後も進み、もう戻ることはないでしょう。私どもも、より試験のオンライン化を推進してまいります。
生産マイスター検定を開始して10年。企業の人材育成や人事評価などに活用される検定として、信頼と実績を積み重ねてきました。この次の段階として、学生や検定を導入していない企業の方など「個人的に生産マイスター検定を受検したい」という受検者も増やしていきたいと考えています。そのために、今後は検定のホームページはもちろんSNSやCBTSが運営するメディア「日本の資格・検定」などを活用して、広く情報を届けていく所存です。
とはいえ、多くの方に受検していただくためには、まず検定を支える基盤を整える必要があります。たくさんの方が検定を知り受検することを目標に、これからもCBTSと共にシステムや運営方法に磨きをかけ、オンライン時代の生産マイスター検定を作り上げていきたいです。